有益な細菌もひとまとめに殺す抗生物質
腸によい食品については既にご紹介しましたが、せっかくそのような食事を心がけていても腸に悪いものをとり続けていたら台無し。今回は腸の細菌バランスを乱して、汚腸を作り出してしまうものをご紹介いたします。
プロバイオティクス(人に有益な働きをする微生物)とプレバイオティクス(プロバイオティクスのエサとなり活動を助けるもの)をあわせて「シンバイオティクス」と呼ぶことがあります。
シンバイオティクスはシンフォニーなどのシン(syn、sym)=「共に」と、バイオティクス=「生物」を組み合わせた造語です。腸内に限らず、人は口内や鼻腔内、皮膚表面、子宮や膣内など、あらゆる場所に細菌が共生しており、それが人の健康にとても大きな役割を果たしていることがどんどんわかってきたことから、細菌とよりよい関係を作ろうという考えが定着してきました。
シンバイオティクスの真逆にあるのがアンチバイオティクス=「抗生物質」です。細菌を殺す抗生物質によって多くの命が救われた一方で、腸内環境に大ダメージを与えることでさまざまな不調を起こしていると考えられます。
抗生物質が過敏性腸症候群やアレルギーを招く!?
日本人の10人に1人ともいわれる過敏性腸症候群や、高血圧や糖尿病といった生活習慣病など、さまざまな病気のきっかけとして抗生物質が関係しているといわれています。
また、国立成育医療研究センターの研究では、生後2歳までの抗菌薬(抗生物質)使用歴があると5歳児のアレルギー疾患リスクが高まることもわかっています。
とはいえ病院で処方された薬を独自に判断して飲まないというのは危険。そこで大切になるのが病院選びです。
まず多くの小児科ではすでに「念のため」といった、飲まなくてもいいかもしれない抗生物質の処方は控えられています。処方される場合でも、慎重に薬の種類が選ばれているはず。
大人の場合は、風邪で抗生物質を処方する医療機関には注意が必要かもしれません。風邪はほとんどウイルスが原因であるため、抗生物質はほぼ効果がありません。そのため薬剤耐性菌の増加を防ぐためにも、風邪で抗生物質を処方するのは控えるよう呼び掛けています。
ちょっと熱が出て鼻水が出るといった単なる風邪であれば抗生物質は必要ありません。
必要があって抗生物質を服用しなければいけない場合でも、長期にわたって服用し続けるといったことがなければ腸内細菌はきちんと復活するので心配いりません。ただし、抗生物質の服用期間に高脂肪食をとっていると炎症性腸疾患のリスクが高まるため注意を。また抗生物質は耐性菌を作らないためにも飲み切ることが大切です。
よかれと思った消毒が健康を脅かす
新型コロナのパンデミックで、人は過剰に消毒をするようになりました。手指消毒はもちろん、家の中まで消毒・抗菌剤でピカピカに磨きあげられているのではないでしょうか。
しかし、それらの消毒ではさまざまな善玉菌も死滅していることも忘れてはいけません。皮膚の常在菌は強いので1回消毒をしたぐらいではいなくなりません。1日程度で回復するといわれているのですが、今は店などどこかの施設に入るたびに消毒するなど頻繁に行われるため、いくらたくましい常在菌でもやられてしまいます。
そのような無菌状態は皮膚にはもちろん腸内にもよいわけがありません。特に幼児期は環境からさまざまな菌を取り入れて腸内細菌の多様性を養う期間です。それなのに触るもの、口に入れるものすべて消毒していたら腸内環境によいわけがありません。
新型コロナ感染患者が入院した病室内のさまざまなところから標本を採取して行われたアメリカの研究では、347の標本のうち感染性のあるウイルスが存在したのは1標本、0.3%であり、さらにそれが接触感染の発生するレベルのウイルスが存在していたとは限らないということで接触感染リスクが高くないと推測されています。
もちろん手洗い、うがいといった予防は大切ですが、過度な消毒は考えものです。
グルテンは漏れ脳まで作ってしまう!?
腸の大敵のひとつは小麦や大麦、ライ麦に含まれるグルテンというたんぱく質。一時期、テニスのノバク・ジョコビッチ選手が刊行した書籍がベストセラーとなり、日本でもグルテンフリーが注目されました。しかし、ジョコビッチ選手のようにセリアック病というグルテンに免疫が過剰反応してしまう病気やグルテンをとると下痢をしてしまうなど不耐症でなければ特に問題ないと考えている人も多いようです。
しかし、そのように大きな症状がでない人でも、べったりとしたグルテンが腸にはりつき、栄養素の分解と吸収を邪魔したり、それが結果的に免疫系の小腸への攻撃を招き、腸壁を弱めてしまったりするという報告があります。つまり漏れ腸と呼ばれるリーキーガット症候群を招き、さまざまな病気へとつながる可能性があるのです。
さらにグルテンにはもうひとつ大きな懸念があります。通常、脳はよくないものを遮断する強固な関門がありますが、グルテンに含まれるグリアジンというたんぱく質に接触すると、その関門まで弱まってしまうという専門家もいるのです。
細菌ではグルテンフリーの食品が増えており、またグルテンを分解するサプリメントも市販されています。グルテンフリーは難しくても、そういった食品を利用しながら低グルテン食を心掛けるのがおすすめです。
ジュースなど甘い加工食品に潜む怖い糖
もうひとつの腸の大敵は糖です。
といっても糖にはオリゴ糖などのように腸によい糖もあります。腸の大敵となるのは、果糖です。「人は昔から果物は食べてきたのになぜ?」と思われるかもしれませんが、自然の果物は現在人が食べている品種改良された果物と違い、それほど果糖は含まれていませんでした。
とはいえ果物のリスクはそれほど高くはなさそうです。気をつけるべきは加工された果糖、ブドウ糖果糖液糖などの異性化糖です。気をつけて見てみると驚くほどたくさんの清涼飲料水などにブドウ糖化糖液糖が配合されています。
このような糖は大腸を傷つけ炎症を起こすことで、大腸がんのリスクを高めることがわかっています。また、病原性の腸内細菌のエサとなるため腸内細菌にバランスが崩れてさまざまな病気を招く可能性もあり、また、太りやすくもなります。
カロリーゼロの人工甘味料も悪玉菌のエサとなって腸内環境を乱し、結果的に太りやすくなる、糖尿病になりやすくなるといった報告もあります。
悪い糖はなるべく控え、甘みをとるならオリゴ糖やはちみつなど、よい糖をとるように心がけていきましょう。
加工されたバランスの悪い食事が腸のダイバーシティを阻む
たくさんの保存料を含む加工食品や、質の悪い脂肪分や炭水化物中心の食事は腸内細菌バランスに悪影響をおよぼします。
イギリスのロンドン大学キングス・カレッジ遺伝疫学ティム・スペクター教授が息子のトムさんを実験台に行った研究でもそれがはっきりとわかります。トムさんが10日間にわたってファストフードを3食食べ続けたところ、実験前は3500種類いた細菌が実験後には2200種類に減ってしまい、多様性が大幅に失われてしまいました。体重は2キロ増え、疲労感や倦怠感、無気力、不眠といった不調にも襲われたそうです。
忙しい生活の中でもなるべく手作りされ、さまざまな食材がとれる食事を心がけていきましょう。自炊しない人でも手作り総菜の店などを味方につければ可能です。