豊かなのに幸せではない日本人のウェルビーイング
世界的に重視されるようになってきているウェルビーイング(Well-being)。日本でも少しずつ注目されてきていますが、日本人のウェルビーイングは世界的に見ると高くありません。日本人のウェルビーイングを高めるために重要な、さらなるふたつの重要な要素とは!?
日本人のウェルビーイングを高めるために
国民のウェルビーイングの状態を知るために、指標のひとつとなるのが国連が発表している「世界幸福度ランキング」です。この指標から、世界的に見た日本のウェルビーイングの現在地を考えてきましょう。
この調査では、以下の6項目のアンケート調査により決まります。
・人口当たりGDP
・社会的支援
・健康寿命
・人生の選択の自由度
・寛容さ
・腐敗の認識
150以上の国や地域を対象として行われていますが、日本の2021年度のランキングは56位でした。2012年から始まった報告で、当初は40位台にあったのが、2010年代後半には50位台に転落してしまいました。
人生を選べない窮屈な日本
日本はご存知の通り長寿国であり、調査項目の「健康長寿」に関してはつねに上位に入ります。また、「人口当たりGDP」も低下傾向にありますが、それでも20位台につけています。
では、何が日本の幸福度を落としてしまっているのでしょうか?
特に低いのは「人生の選択の自由度」と「寛容さ」です。
自分のことは自分で決めるという自己決定の度合いと幸福度は比例するという調査結果があります。
しかし、日本には選択の不自由さがあちこちにあります。たとえば制度はあるのに男性の育児休暇が取得しづらかったり、残業が断れなかったり、夫婦別姓も選べません。たびたび政治家などの女性蔑視発言が問題になるように、依然ジェンダーギャップは高いままで、女性は自由にキャリアを積むことが難しい社会です。
また、ネットやSNSなどでの猛烈な批判などで人を追い詰めるような不寛容さに息が詰まるという人も多いでしょう。
日本人は規律正しい国民として知られていますが、裏を返せば規律から外れる人には厳しい一面があります。コロナ禍でもマスク警察のような人たちによる嫌がらせが相次ぎました。
自分で人生を選べない、集団からはずれることができない。そんな窮屈さによって日本人の幸福度は下がっているようです。
客観的な指標は高いのに主観的には不幸
幸福度調査の内容は欧米諸国に焦点を当てたものであるという問題点も指摘されています。たとえば「寛容さ」でいえば「過去1カ月間にチャリティなどの慈善活動に寄付したことはあるか」という定義になっているため、寄付文化の発達したキリスト教圏以外では低くなりがちです。
また、「1人当たりGDP」や「健康寿命」以外はアンケート調査による結果のため、主観的な値になっているという点も指摘されます。
日本は先にも紹介したように前者の客観的部分についての順位は低くありませんが、主観的な部分で大きく幸福度を下げています。つまり、他国から見れば幸せそうな国でありながら、自分達は幸せを感じていない国といえるでしょう。
自殺率はつねに世界でベスト10入り
とはいえ幸福かどうかというのは、主観そのものです。
経済的には豊かでも、ある程度以上の経済力は幸福度には結びつかないということはすでにさまざまな調査で判明していますし、健康も皆保険が当たり前の日本ではありがたみが薄れているといえるでしょう。
そのためせっかく経済的にも健康面でも恵まれた国でありながら、自殺率は世界でつねにベスト10に入り、G7ではトップです。
特に若い人の自殺の問題は深刻で、若い世代の死因の1位に自殺が上がる国はG7では日本だけです。
感情や精神性のウェルネスも大切な要素
では、どうすれば日本人のウェルビーイングを高めることができるのでしょうか。
そのヒントはウェルビーイング分野の第一人者としても知られる、ディーパック・チョプラ博士の提言にあります。
チョプラ博士はウェルビーイングとは“自分の人生をどのように評価するかといった、主観的な考えに基づくもの”であると定義しており、ギャラップ社が挙げているウェルビーイングのために必要な5項目(キャリア・ソーシャル・フィナンシャル・フィジカル・コミュニティ)だけでは足りないと、さらに2項目のウェルビーイングの必要性をあげています。
・エモーショナル・ウェルビーイング(Emotional Wellbeing)
愛情、同情、喜びや安らぎといった感情は、心身によい影響をもたらします。
・スピリチュアル・ウェルビーイング(Spiritual Wellbeing)
人生の意味や目的の発見につながる信念や価値感を広げることや、内なる平和を維持するといった精神性のウェルネス。
確かに、主観的な幸福感に欠ける日本人に欠けている、そして大切な要素です。
人それぞれウェルビーイングのためにすべことは異なる
ウェルビーイングを高めるためには、チョプラ博士が提言するふたつのウェルビーイングも含めた、すべての要素をバランスよく整えていくことが大切だといえるでしょう。
なぜなら、ウェルビーイングに必要な要素は相互的に影響し合っているからです。
たとえばフィジカル(身体的)・ウェルビーイングが低下している人は、エモーショナル(感情)やスピリチュアル(精神性)のウェルビーイングも低下するでしょう。
アメリカでは平均寿命が低下傾向にありますが、その原因として経済格差や経済的困難が進んでいることであると推察されており、ファイナンシャル(経済的)・ウェルビーイングもフィジカルなどほかの要素に大きく影響することがわかります。
このように、ウェルビーイングであり続けるためには、自分のウェルネスバランスを考えて、低いと考えられる部分をしっかり底上げすることが大切なのです。
また、ウェルビーイングの基礎となる考え方は世界共通ですが、そうあるための要素は宗教や文化によっても異なります。日本人には日本人に合ったウェルビーイングを考えることが、よりよい明日への近道になるでしょう。