記事一覧 | 2022.09.30

知れば知るほど重要性がわかる腸内細菌

腸にはたくさんの腸内細菌が住み着いています。善玉菌が増えれば快便になり、悪玉菌が増えれば便秘や下痢をするという、お腹の調子に関わるものというイメージがあるかもしれませんが、実はこの腸内細菌は私達が思っている以上に私達の体をコントロールしています。

 

 

近年、心身ともに元気でいるためには腸内細菌バランスを整えることが大切ということで「腸活」という言葉も流行するようになりました。このように腸内細菌にスポットライトが当たるようになったのは技術が進み、一気に腸内細菌のゲノム解析ができるようになったからです。

それまでも腸内細菌の重要性は知られていましたが、思っていた以上に腸内細菌が私たちの心身の健康を牛耳っていることがわかってきたのです。

大げさではなく、腸内細菌を意識して生活するかどうかで人生のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)は大きく変わります。まずは腸内細菌について知ることから始めましょう。

 

効率よく栄養を吸収したいなら腸内環境整備が急務

 

腸内細菌は1人の腸の中に数百種類、100兆個超も住んでいるといわれています。小腸にも住んでいますが、メインステージは大腸。さまざまな腸内細菌が群生する様がまるでお花畑のようだということで腸内フローラとも呼ばれています。

 

腸内細菌の働きは実にさまざまですが、まず、消化吸収には欠かせません。人は何かを食べるとまずは噛んで消化しやすい状態にし、それを胃液などの消化液で分解し、小腸で栄養を吸収します。しかし、それだけですべての栄養を吸収できるわけではありません。ある程度消化吸収が進んだものが大腸に運ばれたあとは、腸内細菌がそれらを発酵させ吸収しやすい状態にしてくれるのです。そのおかげで吸収しづらいミネラルなどの栄養素も取り入れることができています。

 

つまり、せっかく栄養バランスを考えて食事をしても、腸内環境がよくなければ十分には取り入れられないので、腸内環境整備も同時進行していくことが大切なのです。

 

腸内細菌が作る短鎖脂肪酸が健康な腸を作る

 

腸内細菌が腸に入ってきたものを代謝させると、短鎖脂肪酸というものを作り出します。短鎖脂肪酸には酪酸やプロピオン酸、酢酸などがあります。バターなどにも含まれており、悪玉コレステロールを下げるとか動脈硬化を予防するといった働きがあり、健康成分としても知られていますが、腸内細菌によって体内でも作られているのです。

 

短鎖脂肪酸は腸内を弱酸性にして、善玉菌が暮らしやすい環境を作るとか、腸のバリア機能の一部である上皮細胞の成長を促すという働きもあります。バリア機能が低下して漏れ腸と呼ばれるリーキガット症候群が起こるとさまざまな不調につながるため、探査脂肪酸は健康のために重大な働きをしているといえます。

 

きれい過ぎる環境が免疫を暴走させている!?

 

腸は免疫の司令塔ですが、そこでも腸内細菌は重要な役割を果たしています。

免疫力は低いと困りますが、高すぎるのも大問題です。本来、敵ではないものにまで攻撃をしかけて自らの体にダメージを与えてしまうからです。その代表がアレルギーや自己免疫疾患です。

 

私たちの体には免疫の暴走を止めるための機能も備わっています。その代表が制御性T細胞(以下、Tレグ)と呼ばれる細胞です。Tレグはあらぶった免疫細胞を鎮める免疫系の賢者であり、Tレグがしっかり働いているとアレルギーも起こりにくいことがわかっています。

 

Tレグは生活の中でさまざまな細菌に増えることで増えると考えられています。そのため自然や家畜などの動物が身近にいる酪農家や農家の子どもたちはTレグが多く、アレルギーも少ないことがわかっています。一方で、隅々まで清潔で抗菌されている都市部の子どもたちはTレグが減って、アレルギーも増えています。

 

もちろんアレルギー改善のためといって家畜を飼うことはできませんが、腸内細菌の中にはTレグを増やす種類のものがいるので腸内環境整備をして働きかけましょう。また、自然が多い場所に行くだけでもTレグが増えたという報告もあるので、なるべく自然の中に身を置くことを意識するのもおすすめです。

 

毎日を心地よく過ごすカギは腸内細菌

 

腸内細菌は気分とも強く結びついています。腸内細菌の中には心を落ち着かせるセロトニンや精神を落ち着かせるGABA、気分を高揚させるドーパミンなどの物質を合成したり、脳内で合成させるように促すことができるものがあるのです。

実際にうつ病の人はセロトニンが少なく、また、腸内細菌にも一定の菌が少なくなっていることがわかっています。また、臨床実験でも腸まで生きて届く有益菌が含まれるヨーグルトを食べた女性は感情の動きが穏やかなになったという報告も。

実は、腸には神経が張り巡らされていて、そこで得た情報はすぐに脳と共有されるなど、腸と脳はお互いに連携して働いています。そのような関係性は腸脳相関(または脳腸相関)と呼ばれていますが、腸内細菌も深く関わっているため腸内細菌叢―腸―脳軸の頭文字をとりMGB軸とも呼ばれます。それぐらい腸内細菌は人の中枢機関にも関わっている、もしくはもはや中枢の一部だといえるのです。

 

腸内細菌は人間の世界と同じように多様性が重要

 

ほかにも腸内細菌はホルモン分泌を働きかけてストレスをやわらげていたり、睡眠の質を高めていたりと体にとってありがたいさまざまな働きをしています。一方で脳疾患や糖尿病、がん、肥満などの疾患につながる腸内細菌も存在しています。

このようにいい働きをする腸内細菌を善玉菌、悪さをするほうは悪玉菌、そして強いほうに味方をする日和見菌がいるということは広く知られていますが、実際にはそれほど単純ではありません。たとえば大腸菌といえば悪玉菌の代表的存在ですが、適度に住み着いている場合には悪さはしない一方で、ビタミンKを作り出すというよい仕事をしています。逆にアッカーマンシア菌は痩せ菌として知られており、どんどん増やしたいと思われがちですが、増えすぎてしまうとリーキーガット症候群が起きやすい状態になるといわれています。

つまり大切なのは多様性。人間の社会でも多様性が生まれると、さまざまなアイデンティティや価値観、考え方が生まれるため豊かになるといわれていますが細菌の世界も同様なのです。

しかし、現代人には腸内細菌の多様性が失われている人が増えています。次回はその理由と、腸内環境を整える方法をご紹介していきます。